40.100万円の絵画
私の黒歴史。
本当に高くついた話です。
それは、
意気揚々と上京をして、
バイトにもありつき、
ようやく生活リズムが整って、
一人暮らしにも慣れて来た25 歳の夏のこと。
渋谷の路上で20代後半くらいの女性に声をかけられました。
「ちょっと見て行きませんか?」
キャッチされてしまったんです。
それは画廊でした。
階段を降りると、
部屋中に大きな絵がたくさん飾ってありました。
結構広いスペースで、
名前を聞いたことのある作家の絵もあって、
関心のある分野ではなかったけれど、
誘われると断れないタイプ。
しばらく見ていると、
先ほどの女性が「どれがいいですか?」。
僕は幅150cmくらいある夢の世界を描いたような絵を指差しました。
するとお目が高いと言わんばかりに、
「その絵を選ばれるなんてセンスがありますね」ですって。
営業マニュアルだとその時はわからなくて。
見事に引っかかる田舎者がいるんです、ここに。
女性に対して免疫力がなかったこともありますが、
私は真に受けてしまって、
「お客様ならお似合いの絵だと思いますよ」
「へぇ〜音楽をされているんですか、
そういえば先日もGLAYのJIROさんがご購入されたんですよ~(真実は定かではない)」
などと、私の自尊心をくすぐりながら、つきっきりで落としにきたわけです。
値段は150万だったと思います。
「僕には買えません!さようなら!」と、
きっぱり立ち去ればよかったのに。
女性は一旦事務室へと下がり、
私は一人になりました。
「そろそろ帰ろう。
あの絵はいいような気もするけど、
150 万なんて買えるわけがない…」
そう思っていたところに女性が戻って来て、
「お客様だけに特別です。
今日決めていただけるなら100万円にします」
と、50万引きのオファー。
でもいくら50万円引いたって100万円じゃないですか。
冷静に考えてフリーターの身分で払えるわけがない。
更には具体的に、
「5年ローンで月たった2万程度の支払いで済みますし、
お客様なら大丈夫ですよ」
と、会ってまだ1 時間くらいしか経っていない私のことを、
まるで旧知の仲であるかのようにぐいぐい勧めてきました。
その時の私は全く冷静じゃなかったですね。
こんなに付き合ってくれたし…と、
相手の術中にはまり、
引くに引けなくなってついには口説かれてしまい…
私はなんで買ったのでしょう…
これからミュージシャンになって大金を稼ぐんだから、
100万円くらい大丈夫だろうというアホな見栄と自尊心。
全く必要のないどうでもいいプライドが魔を差して契約してしまったのです…
契約後、
画廊を出ると、
相変わらず渋谷の街はガヤガヤしていました。
大きな額だったこともあって、契約後に悩むわけです。
翌日、
確認したいことがあったので画廊に電話をして、
担当した女性を出してもらおうとしても、
「休みです」とキッパリ。
他の日に電話をしても、
「席を外しています」
結局、
その後も一度も出ることはなくて、
契約後は電話には出ないようにするというマニュアルがあったのか、
もしくは詐欺みたいな商売が嫌で辞めたのか。
当時はクーリングオフなんて制度も知らなかったですし、
私は価値ある絵を買ったんだと自分に言い聞かせました。
購入して1ヶ月ほど経って、
絵が送られて来ました。
1Kの家には似つかわしくなく、
絵は所在無さげに肩身を狭くしていました。
一時期だけ飾っていましたが、
そのうちダンボールに入れたまま。
ヤフオクに出品したこともありますが、
全く価値がつかなかったです。
私は騙されたと後悔したけれど時すでに遅し。
その後、
まじめに5年間で支払いを終えましたが、
絵は引越しの際に失くしてしまいました。
本当にバカな買い物をしたものです。
その絵の販売会社は裁判にもなり、
行政処分を下されて現在はなくなったようです。
終わってしまったことは仕方がない
誰に迷惑をかけてるわけでもないなら
自分の気持ちを整理すればいいだけ
ずっとウジウジしたっていいし
次へ次へと進んだっていい
揺らぎの中で生きてるわけだし
前向きだけがいいわけでも
後ろ向きだけが悪いわけでもない
